日銀の国債引き受け論の本質とは?
東日本を襲った巨大地震の発生から3週間が経ちますが、余震が続いているせいか、いまだに揺れている感覚が抜けないような気がします。
当初は「被害は東北地方に集中しているため日本経済全体に対する影響は限定的」、「目先は多少落ち込むが、復興需要が出るので中期的には経済にプラス」といった楽観論もありましたが、その後被害は予想を大幅に上回り、政府は、道路・港湾・空港設備や住宅などの直接的な被害額だけで約16兆〜25兆円と試算。国民新党の亀井代表は3月28日に「復興には7〜8年かかり、財源は100兆円以上かかる」と発言しています。
復興費用が20兆円としても、増税だけでは到底賄えませんから、政府が赤字国債を発行することは避けられません。そこで浮上しているのが、「復興費用を日銀による国債の直接引き受けで調達せよ」という主張です。日銀の国債引き受けは財政法第5条で禁止されていますが、実は但し書きがあり、「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では」可能です。今回の震災は第二次世界大戦の敗戦に匹敵する国家的な危機であり、「今がその特別な事由でなくして、何が特別な事由なのか」という主張が出てきているわけです。
これに対して日銀擁護派は、「日本には1400兆円もの個人金融資産があるのだから、何も日銀に引き受けさせなくても、普通に市中で発行すればよい」と反論しています。実際のところ、日本国債の利回りは1.2%程度と極めて低く、20兆円の赤字国債を発行したところで問題なく消化できるでしょう。
また日銀は国債の直接引き受けは禁止されていますが、市場で国債を買うことに法的な問題はなく、政府が発行した国債を日銀が市場ですぐに買い入れれば、バランスシート上は日銀が直接引き受けたのとほぼ同じ効果になります。違うのは、政府から強制的に国債を買わされるか、それとも日銀の意思決定に基づいて国債を買い入れるかという点のみです。この観点から言えば、日銀の国債引き受け論はあまり意味がないということになります。
「日銀に国債を引き受けさせよ」と主張する政治家たち(「日銀のあり方を考える議員連盟」など)もそのあたりは十分承知しているはず。では日銀の国債引き受け論の本質はどこにあるのでしょうか。それは、
「日銀の国債引き受けを使ってインフレや円安を作り出したい」
というものではないでしょうか。「日本はデフレと円高に苦しんでいるのだから、日銀が国債を直接引き受けてインフレ・円安になるならむしろ好都合」というわけです。「直接引き受け」も「市中買い入れ」も経済的には同じと言っても、マーケットの反応はまるで違います。
日銀が直接国債を引き受けると発表すれば、財政規律が失われると受け止められ、為替市場では大幅に円安が進むでしょう。また日銀券増発で貨幣価値の希薄化が想起され、インフレ期待が生まれる可能性が高い。一方国債相場は一時的に下落するでしょうが、基本的にはカネ余りのマーケットですから、買い手が誰もつかなくなるほどの暴落は考えられません。
また戦後のような物資不足の極限状態ならいざ知らず、すでに70兆円あまりの国債を保有している日銀が新たに20兆円の国債引き受けたところで、年率数十%といったハイパーインフレになるはずもありません。債券市場の関係者や識者の間では、「日銀の国債引き受け論など金融が分からない人の妄言」と冷笑する向きが少なくありませんが、ここまで考えてのことなら、十分検討に値するのではないか。
今最も怖いのは震災で円高とデフレが加速し、日本経済全体が致命的なダメージを受けてしまうことです。このデフレ不況の中で大型増税すれば、被災していない人まで委縮することになり、よほどリスクが高いのではないでしょうか。未曽有の危機だからこそ、常識にとらわれない、非常時の政策が必要となってきます。「識者の懐疑的な見方」に反して、日銀の国債引き受けが実現した場合のインパクトを今のうちにシミュレーションしておくべきかもしれません。(注:筆者の個人的な見解です)
(世界各国の国債発行額:IMFホームページより)
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